再受験を決意したのは大学院も最終学年となった5月頃のこと。
なぜ5月という中途半端なタイミングになったかというと、その頃に就職活動が一区切りついたから。
そう、実は陰でコソコソと就職活動していたのだ。
もしハートにグッとくる企業があれば、その時は医学部のことは忘れて潔く就職しようっていう思いがあったのと、あとは単純になんかオモシロそうだったから(社会勉強のつもりで)。
内定すると辞退できなくなるので大学の推薦は使わずに、一般公募でいろんなジャンルの企業を受けたような気がする。覚えてるだけでもNHK、JR西日本、P&G、ヤンマーディーゼル、リクルート、新日鉄などなどなど。
しかしどの会社も私の医学部に対する熱い思いを打ち崩すには至らず(というよりは丁重にお断りされ)、5月というなんとも微妙な時期に再受験を決意するに至ったわけである。
だけど辞めると決意してすぐにハイサヨナラとはいかない。
そこから後輩に研究内容や院生としての雑務その他モロモロの引継ぎを済ませ、研究室から山のような私物を引き上げ、教授にサヨナラを告げ退学の手続きを取り・・・。
しかしその頃面倒を見て頂いた教授が実に理解のある方であらせられ、退学よりは休学の方が何かと便が良かろうと忖度頂いた結果、なんと休学扱いで再受験に挑むことが許されたのだ。
これは今から考えれば非常に大きな、まさに再受験の合否を左右するほどの分岐点であったわけだが、当時の自分はそのようなことを知る由もなく、退学で潔く退路を断ってやろーと思ったのに休学かー、まーこのまま大学の図書館使えるからラッキーくらいにしか考えていなかった。
いよいよ本格的に大学院を離れ6年ぶりに受験勉強を始めるという段階になって、兎にも角にも事前計画が肝要である、というどこぞの消費者金融の決めゼリフみたいな当たり前の事実にようやく気付いた私は(さすがにいい歳なので無計画の怖さを経験上悟っていた)、以下を金科玉条と定めて浪人生活の再スタートとした。
- 必ず1年で合格を手に入れる(と強く思い込む)
- そのためには日本全国どこにでも飛び立つ(飛行機は怖いけど、乗る)
- 予備校には行かない(行けない、金も時間も学力も)
- 家には帰らない(下宿を続けて孤独に戦うという意味、もちろん帰省はOK)
- 現役時代は物理化学だったが、医学部に行くんだから生物化学にする(我ながら最悪の選択)
- 同じく日本史は時間がかかるため倫理に変更(後に大きく人生を変える選択)
このプロジェクトをしくじると人生詰んでしまう・・・・・
いかに能天気な私でもそれだけは痛いほど理解していたため、さすがに現役時代とは目の色が違った。というか血走っていた。
なので最大限効率良く進めるために、浪人生活の拠点をどこに置くかを慎重に検討した。
大学を辞めるんだから下宿を引き払って実家で勉強するほうが金銭的にも肉体的にも楽チンなのは重々承知していたが、現役の頃から他人に見張られているように感じると全く勉強がはかどらないタチであったため(実際には誰からもあまり気にされていないのだが)、あえて実家には戻らずにこのまま下宿を続ける、もちろん家賃生活費は親持ちで、というクソ厚かましい提案をイケシャーシャーと持ちかけてみた。
殺し文句はもちろん「今年で決めてみせるからさ」⇒結果はOK、なんでも言うてみるもんですな。
こう書くと最低なドラ息子のように聞こえるが、予備校には行かないため必要経費が少ない上に、週1回は時給の高いアルバイト(研究室のコネ)を続けて生活費の足しにすることが前提であった(実際は生活費のためというより、むしろ社会とのつながりを持ち続けることが目的)。
そして何より、いまさらいい歳こいた浪人生が家庭内に湧いて出たら家族みんなが気を使って落ち着かんだろうという心優しい配慮があったことだけは、自分の名誉のために付記しておきたい。
いずれにせよ一人暮らしは実家から車で小一時間のご近所であったため、キツくなったらいつでもフラッと帰れるという安心感もあり、結果的にこの”一人で孤独に戦う作戦”はなかなか良い選択であった。
休学に伴う雑務を片付けていよいよ研究室を去り、同じ大学敷地内の少し離れた図書館に通うようになったのはすでに6月も近い梅雨入り間近の頃。
冷静に考えると・・・
ヤバい、ヤバすぎる・・1年で受かってみせると豪語した割に時間が無さすぎる・・・6年前の受験の知識なんてとうの昔に藻屑と消え失せている・・今からあれやこれやと参考書/問題集に手を出していては100%間に合わない・・・
そう気付いた私は焦る気持ちを押し殺し、努めて冷静にネット(主に2ちゃんねる)で受験生からの評価が高い参考書を各教科1~2冊程度ピックアップするという作業に徹した。
意外と高評価の参考書は限られていたため、比較的容易に照準を絞ると即座に本屋で購入、そうしてようやく本格的に受験勉強を開始したのであった。 その3へ続く