パンダ組の日常

~だんご三兄妹をめぐるカオスな日常~

絶対に笑ってはいけない 研修医編

 #シュガラお題「理想のコンビ」

 

 

今回は珍しく研修医の頃の思い出話でも。

ついでに今週のお題にも乗っかってしまおう。

 

 

 

大学を卒業後、国家試験に合格し晴れて医師免許を取得すると、通常は2年間の初期臨床研修を受けることになる。

この期間がいわゆる「研修医」だ。

車の運転でいうところの若葉マーク。

職人さんでいうところの見習い期間。

 

肩書こそ「医師」であるが、当然ながら右も左もわからないヒヨっこである。

 

多種多様な職種がひしめき合う医療現場において、ヒエラルキーの最下層でもがき苦しむ哀しき存在、研修医。

 

一般的に研修医といえば、まだあどけなさの残る青年たちが初々しさを振りまいて爽やかに奮闘するシーンを想像されるのであろうが、現実は少し異なる。

 

「何もできないくせにチョコマカと動き回りやがって、邪魔なんだよ」とばかりに年配の看護師から邪険に扱われ、白衣を纏ったそのビジュアルから「白いゴキブリ」なんて揶揄されたりして。

もちろん優しい看護師さんもいるし、働きやすい病院もあるんだけど。

あくまで一般的な話。

 

しかし幸か不幸か私の場合、その頃にはすでに見た目も年齢も完璧すぎる中年であった。

もうどこに出しても恥ずかしくないほどの中年っぷり。

まぁ散々回り道したんだから仕方がない。

だけどそれを逆手にとって内心ビクビクでも自信ありげに振舞っていると、何も知らない周囲の人間は私のことを「そこそこ中堅の医者」だと勘違いして丁寧に接してくれたりして。

 

正直、歳を取ってから医者になって良かったと思えるのはこの一点のみである。

 

 

しかしオーベン(指導してくれる上級医)はさぞかしやりにくかっただろうに・・・

 

f:id:pandamonda:20181221201350j:plain

 

 

さて〇✖県から彼女(後の嫁さん)を連れて故郷に帰ってきた研修医1年目、私は県北部に位置するとある研修病院に配属となった。

 

100年前の建物ですか?ってぐらいボロっちい、そして広大な敷地の病院。

和製バイオハザード実写版があれば、ロケ地として最終候補まで残りそうな病院。

 

そしてなんの偶然が重なったのか、互いに別々の研修先へ希望を出していたにも関わらず、私と彼女はこの病院にまとめて放り込まれたのだ。

 

 

嫁さんとの関係を一言で表せば?

そう問われれば迷わず即答する。

 

「戦友です」と。

 

研修医にとって、まさに「研修1年目」という死線を共にくぐり抜けた仲間は戦友に他ならない。

 

ま、自慢じゃないけど嫁さんを背に最前線で実弾喰らいまくってたのは間違いなくオレなんだけどね。

 

 

ということで理想のコンビは「私と嫁さん」

強引にコジツケてやったぜ。

 

はい、チャチャッと今週のお題クリアってことで。

 

 

f:id:pandamonda:20181221202037j:plain


 

さてと、話が随分逸れたが前置きはこれくらいにしてそろそろ本題へ。

絶対に笑ってはいけないシリーズだった。

 

 

研修医といえば、基本的には雑務である(ホントは雑務をやらすのはNG)。

簡単な処置や採血なんかは研修医の仕事であるが、大きなリスクの伴う手技や深刻な病態の説明は上級医が行う。

 

ある日かなりの重症患者が入院となり、その患者を私のオーベンが主治医として受け持つことになった。

そうなると自動的にコベン(その指導医についている研修医)である私が担当医となる。

 

ご高齢の患者さんとその奥さんに対し、オーベンがかなり厳しめのムンテラ(病状や今後の方針などの説明)を行った。当然ながら研修医がそのようなムンテラを単独で行うことはない。

 

私は傍らで眉間にシワを寄せ、時折フンフンと相槌を打ちながらその説明を聞いていた。

当たり前だ。

それなりに深刻な状況であり、夫婦ともども狼狽えている中で笑顔など出るわけもない。

万が一ニヤついたりしようもんなら、あとでオーベンにこっぴどく叱り飛ばされる。

 

 

オーベンからの説明が一通り終わると、続いて今後の治療に関わる承諾書にサインを頂く段階になる。

こういった雑務は研修医のお仕事。

書面に書かれている内容をザッと説明し、了解が得られたならば最後に日付と自筆のサインをもらうのだ。

 

しかし患者本人はサインができる状態ではない。

そこでやや心許ない気がしたが、奥さんに代筆をお願いしたのだ。

 

 

これが間違いだった。

 

 

「ここに本日の年月日をお願いします・・・そうです・・・・・そしてここにご本人のお名前・・・・こちらは代筆された奥様のお名前を記入してください・・・・・そうですそうです・・・・・続柄は・・・・奥様ですよね?それでは妻と記入してください・・・」

 

ゆっくりと書き進める奥さん。

 

ようやく書き終わって私に書面を返してくる。

 

 

その時、不幸にも書面の一部がチラリと私の視界に入ってしまったのだ。

 

 

 

本人署名:研 修一

代筆者署名:研 修子

本人との続柄:麦

 

 

 

 

 

本人との続柄:

 

 

 

 

 「えっむ・・むぎ!?妻?麦?妻麦??麦妻???」

 

 

 

ここから私の孤独な「絶対に笑ってはいけない」戦いが始まった。

 

 

耐えろオレここで吹いたらジ・エンドそう終しまいだあとでオーベンに半殺しにされるぞ看護師のアタリも今よりさらにキツくなるしなにより患者さんと信頼関係を築けなくなるんだぞいいのかそれでダメだろならば耐えろ耐えて耐えて耐えぬくのじゃあああぁぁぁぁぁ

 

 

心の中で念仏のように唱える。

奥歯をグッと噛みしめ、文字通り苦虫をかみつぶしたような顔になる。

 

 

よしっいいぞ!周りから見たらナカナカにいい表情だ!!

 

 

しかしどうしてだろう、笑いの波は真剣になろうとすればするほど何度でも押し寄せてくるもんだ。

 

 

麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた麦って書いてた妻って書いてよ・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

いつものようにそろそろ面倒臭くなってきました。

 

ま、結局は鉄の意志でもって能面のような顔を貫き通したんですけどね。

 

特にオチはありません。

 

最後までお付き合い下さった方、なんかスミマセンでした。

 

 

 

しかし私は今、自分に対してひどく感動しています。

 

よくぞこのネタで2500文字も引っ張ったもんだ・・・