現実逃避がてらに職場の庭をブラブラお散歩していたときのこと
どこからかジッと見られているような違和感を覚えた
な、なんなんだこの禍々しい妖気は・・・
慎重にあたりを見回す
だがパッと見は何も異状ない
舐めんなよ
オレのセンサーは超超超敏感なんだ
誰だっ!?さっきからジットリ見てるやつは!!
何度もカミングアウトしているが、私は虫が大の苦手
だからなのかなんなのか人一倍気が付いてしまうのだ
ヤツらの気配に
老眼に鞭打ってもう一度あたりを見回した
・・・・・いた
花壇の前のアスファルトの上に、堂々と
クワガタが
実は二年前にも偶然、都会のど真ん中で80mm弱のオオクワガタを発見してしまった前科があるのだ、私には
だけど今回は小物
クワガタに詳しくない私にだってわかる
コイツはコクワガタだ
間違いない
こんなとこにもいるもんだね~
なんとなく感動を覚えはしたものの、あまり深く考えずに通り過ぎようとした
しかしなぜだか後ろ髪を鷲づかみにされる
・・・・・なんなんだこの罪悪感
うっすらわかってた、この罪悪感の正体
だから渋々家に電話を入れた
もちろんテレビ電話
電話に出た嫁さんに長男を呼ぶ様伝える
数秒後、風呂に入るところだったのか素っ裸の長男が登場
「もしもし・・・・父さんこんなの見つけちゃった」
テレビ電話にクワガタを映す
向こう側から聞こえてくる歓喜の声
「ここ病院だしコイツなんとなく汚れてるから、このまま逃が・・・」
「早く獲って」
うん、やっぱりね
そりゃあそうなるよね
聞くんじゃなかったよ・・・
意を決してクワガタを掴もうとした
前回獲ったオオクワガタだって恐る恐る触ることができたんだから
こんな小っちゃいコクワなんて余裕っしょ
だけど二年も経ったらそんな蛮勇は微塵と消え失せてた
触ろうとしては手を引っ込める、そんな動作を20回くらい繰り返した
キャッとかヤダっとか叫びながら
微動だにしないコクワガタに向かって
四十路過ぎのおっさんが
そして結局断念
これ以上は時間の無駄と判断した私は一旦事務課まで戻り、紙コップと割り箸を拝借
これさえあれば触らずに済む
心の中で「どっかに消え失せててくれ!」と祈りつつ現場に戻った
ちゃんといた
死んでんじゃねーの?っておそるおそる紙コップを近づけてみたら、突然コップの縁を思いっきり挟んできやがった
残念ながら生きてるみたい
そして凶暴極まりない
どう足搔いても縁に食らいついたクワガタをコップの中に入れることができず
散々格闘した挙句、コップの先端にクワガタをぶら下げたまま半泣きで医局に帰った
白い紙コップに黒い虫をぶら下げて突然医局に現れた半泣きの中年を見て医局秘書が2メートルくらい飛びのいた
一瞬医局内が騒然としたが、くっついてる虫が小さなクワガタだと知って人が集まってきた
その中に虫に強い先生がいたので、お願いしてコップの中にクワガタを移してもらった
やっと一息ついてクワガタをマジマジと眺めた
コイツ・・・・・汚ねえな
二本のツノ(顎?)にはなんか蜘蛛の巣みたいなゴミが絡みついている
体も埃をかぶったように薄っすらと白い
ここは病院だし、どこか汚い場所を通ってきたのなら一大事だ
衛生上このまま家に連れて帰るわけにはいかない
咄嗟に手持ちの次亜塩素酸水を霧吹きで吹きかけた
「おいおい、大丈夫なのそれ?アルコールスプレーのほうがいいんじゃない?」
周りの先生が私を制止した
いやいや、大丈夫でしょ次亜塩素酸水
次亜塩素酸ナトリウムならヤバいだろうけど
俺なんてほぼ毎日頭からかぶってるぜ?
眼球とか、時々口の中にもシュッシュしてるぜ??
ていうかアルコールかけたらあかんやろ、さすがに・・・
心の中でそう呟きながら次亜塩素酸水で濡れたクワガタの体を綿棒で拭いた
ついでにツノに絡まってる蜘蛛の巣みたいなゴミも取り除いた
そしたら見違えるようにキレイになった
今、彼は家族の一員として元気に暮らしている
食欲は旺盛、色艶もいい
名前はコビートレシア
子供たちが考えた
名前の由来は全くもって不明だ
なんでもいいから次は長生きしてくれ
※眼球や口腔内に次亜塩素酸水をシュッシュしていいかどうかは知りません。背に腹は代えられない状況なので自己責任でやってます。同様に昆虫に次亜塩素酸水をシュッシュしていいかどうかも知りません。多分やめといたほうがいいと思います。