以前このブログで書いたことがある。
アトピーのこと。
私の身内には成人発症のアトピー性皮膚炎でかなりの期間、QOL(Quality of Life:生活の質)が落ちていた人間がいる。
かれこれ20年以上、家族ぐるみでこの病気と闘ってきた。
それなりの我慢も強いられたし、神サマに平等に与えられているはずの機会も損失してきた。
命に直結しないというだけで、長い人生のスパンで見るとかなり厄介な疾患であることは間違いない。
そんな憎きアトピーではあるが、最近我が家において大きな転換点と言えるイベントがあった。
同じ病気で苦しんでいる方の一助にでもなればという思いで今回、ここに記録しておこうと思う。
もちろん私は皮膚科医では無いため、書いていることに多少の間違いや専門家から見たニュアンスの違いがあることはご容赦頂きたい。
素人が素人なりに理解した現在のアトピー治療、という程度で流し読みしてもらえれば。
だけど今回はいたって真面目。
目次まで作る気合の入り方。
アトピーと縁の無い方には全く面白くない長文なので、思いっきりスルーしてください。
目次
- ステロイド外用薬とは
- アトピー性皮膚炎とステロイド外用薬
- リアクティブ療法とプロアクティブ療法
- プロアクティブ療法の骨子(我が家が受診した病院の場合)
- プロアクティブ療法を成功させるために必要なこと
- 最後に ~我が家の場合~
ステロイド外用薬とは
アトピー性皮膚炎の治療の柱はご存知「ステロイド外用薬」である。
湿疹がでたときなどに病院でよく処方されるやつ。
リンデロンVGとか、大体のご家庭に一本くらい常備されているのではなかろうか。
ステロイド(詳しくは糖質コルチコイド)とは体内の副腎と呼ばれる臓器で生成される「副腎皮質ホルモン」のことであり、それを人工的に作って外用に加工したものが「ステロイド外用薬」である。
ステロイドは様々な作用を有するホルモンであるが、中でもその「抗炎症作用(炎症を抑える働き)」を期待して皮膚炎に投与されている。
しかし一言でステロイド外用薬とはいっても、その種類は多岐にわたる。
なぜたくさんの種類があるのかというと、ステロイド外用薬はその抗炎症作用の強さによって五段階のグレードにわけられているからだ。
具体的には以下の通り。
・ストロンゲスト(最強)
・ベリーストロング(かなり強力)
・ストロング(強力)
・マイルド(中等度)
・ウィーク(弱い)
ちなみにリンデロンVGでストロング程度。
この五段階の中に各製薬会社が色んな製品を送り込んでいるため、実にややこしいことこの上ない。
私のような皮膚科でない医者は、どの外用薬がどのグレードだったか一向に覚えられずに何度も薬の本をめくり返す羽目になるのだ。
アトピー性皮膚炎とステロイド外用薬
繰り返しになるが、アトピー性皮膚炎治療の柱となるのがこのステロイド外用薬である。
それなら何も考えずに最強ステロイドをガンガン使いまくればいいじゃん、とお思いになるかもしれない。
しかしステロイドは魔法の薬ではない。
強い外用薬を使い続けると、皮膚そのものに萎縮や色素沈着などの局所的な副作用が出るだけでなく、皮膚から体内に吸収されることで副腎機能低下などを引き起こすことがある。
頑張ってステロイドを合成しなくても、外から勝手にステロイドが入ってくるために副腎がサボって自前のホルモンを作らなくなるというわけだ。
副腎ホルモンは人体にとって無くてはならないホルモンであるため、副腎が機能低下に陥るとシャレにならない事態となる。
というわけでアトピー性皮膚炎に関わらず、ステロイド外用薬は自己判断で適当に塗ってよい代物ではなく、医師の診察を受けて然るべきグレードのものを然るべき期間継続する、という使い方が大原則の薬なのだ。
リアクティブ療法とプロアクティブ療法
さて、従来のアトピー治療はいわゆる「リアクティブ療法」とよばれるもの。
一言で言うならば、「悪くなった時」に対応する治療法である。
普段は基本的に保湿剤のみ、皮膚の状態が悪化した時だけ一時的にステロイド、改善すればすぐに保湿剤に戻す、という流れだ。
しかしアトピーという病気は良くなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴。
軽症のアトピーであればこの治療法で上手くいくだろうが、中等症~重症の場合、この方法ではどうしてもイタチごっこの様相を呈してしまい、結局ダラダラとステロイドを塗り続けてしまうなどコントロールが上手くいかないケースが多かったようだ。
ちなみにウチもおそらくこのケース。
そこで最近(と言っても実は何年も前から)になって注目され始めたのが「プロアクティブ療法」と呼ばれる治療法である。
リアクティブ療法が悪くなることを前提とした治療法であるのに対し、プロアクティブ療法は悪くならないように前もってアトピーをコントロールしましょう、という治療法。
そもそもの前提が全く違う。
そのため、プロアクティブ療法ではステロイド外用薬を完全にoffするのではなく、症状のない時も基本的に週に1、2回は外用を継続する場合が多い(状態が良ければ最終的にoffすることもあるらしいが)。
皮膚に炎症がない状態をキープし続けるのがプロアクティブ療法の目的だ。
プロアクティブ療法の骨子(我が家が受診した病院の場合)
①皮疹の程度に関わらず、まずは強いステロイドをドカンと使う(1日に2回全身塗布)ことで炎症がゼロの状態に皮膚をリセットする(約2週間):初期寛解導入
②炎症が完全に鎮火されたのを確認し、強いステロイドの全身塗布を1日1回に減らす(約4週間)
③皮疹の無い状態がキープできていれば、ステロイドの全身塗布を隔日に減らす(約4週間)
④再燃が無ければ、ステロイドの全身塗布を1週間に1、2回に減らす
一見するとグレードの高いステロイドを皮疹の程度に関わらず使うなんて・・・なんてオソロシイ、と考えてしまいそう。
しかしそれこそがこの治療法を成功に導くためのミソ。
まずは完全に炎症がゼロの状態にもっていかなければ、塗布回数を減らした時点で再燃してしまう確率が高い。
しかもパッと見では皮疹の無さそうな部位においても実は炎症が隠れている場合があるため、皮疹が出ていないところも含めての「全身塗布」がポイントなのだ。
さらに最近では、見た目の炎症だけではなく血液検査において炎症が燻っていないかを確認できるようになった。
「TARC」と呼ばれる指標である。
TARCはアトピーの重症度を反映するとともに、治療の効果判定の指標としても用いられる。
500~600pg/ml以下(施設による)が目標らしいが、重症患者ともなると1万を軽く超えるケースもあるらしい。
この値も参考にしつつ、皮膚炎が燻っていないかをチェックするというわけだ。
さて、この治療法を成功させるために①の火消し(初期寛解導入)を行った後は、皮膚の状態を見ながらゆっくりと塗布回数を減らしていく。
用いるステロイドの強度や減らすペースは、皮膚科医が患者の皮膚の状態を見ながら個々に判断していくのだろう。
そして最終的に、皮膚に炎症が無い状態でステロイドの外用は週に1回前後、といういわゆる”寛解状態”をキープするのだという。
一見すると強いステロイドを大量に使っているように見えるが、実際には短期間集中して外用することで、ダラダラと塗り続けた場合よりも結果的に薬の総量は少なくなるらしい。
これが本当なら、長らくアトピーで苦しんできた患者にしてみれば間違いなく朗報である。
プロアクティブ療法を成功させるために必要なこと
素人目にこの療法の概要をザッと見て感じたこと。
この治療法を成功させるためにはいくつかのポイントがある。
それを列挙してみる。
①ステロイドの副作用を恐れすぎない
もちろんステロイドには嫌な副作用もある。しかしそれはグレードの高いステロイドを長期間にわたってダラダラと使い続けた場合。
ステロイドの副作用がどのようなものか、どの程度使用するとどんな副作用が出るのか、そういった知識を正しく理解することで不安は解消される。
使うべき時には躊躇なく使う、この姿勢が重要。
②信頼できる医師をみつける
全ての医療機関で同様の治療を受けることができるほどプロアクティブ療法が浸透しているかというと、残念ながら「ノー」だろう。
重症アトピーに対しても、未だに民間療法まがいの治療が行われている場合もあるらしい。
そこでまずはネットや実際に治療を受けた人の話を聞いて、この治療法を積極的に取り入れている医療機関を探すところから始めなければならない。
そこで自分に合った信頼できる医師を見つけることができれば、あとはその先生と二人三脚で治療を継続するのみ。
決して途中で通院を中断したり、薬の量を自己流で減らしてみたりといったアレンジを加えてはいけない。
③一生付き合っていく
例えば治療を受けている高血圧の患者。
血圧が正常範囲内にあるのは薬を飲んでいるからであって、降圧薬をやめると血圧は再び高くなる。
逆に言うと、薬を飲み続けている限りは正常な人となんら変わりないわけだ。
アトピーもこれと一緒のこと。
ステロイドを始めとしたスキンケアは今後ずっと必要だけど、それさえ怠らなければ見かけ上はアトピーだとわからないレベルをキープすることが可能なのだ。
治すのではなく、炎症を抑えた状態で上手くコントロールしながら付き合っていくというイメージ。
最後に ~我が家の場合~
それでは最後に我が家のケースを簡単にご紹介。
良くなったり悪くなったりを繰り返して埒が明かない現状を無気力に受け入れていたのだが、私たちの居住地からやや離れた場所にアトピー治療のメッカと呼ばれる病院があるという噂を偶然入手した。
なぜか運命的なモノを感じた私は自ら紹介状を作成し(医者の特権)、すぐに予約を取って半ば強引に家人をその病院へ受診させたのだ。
紹介状には以前このブログでもご紹介した新しいアトピー治療の分子標的薬、デュピクセントの使用(アトピー性皮膚炎に新薬・・・デュピクセント - パンダ組の日常)も検討頂きたい旨まで記載したが、紹介状の返書には下記のような何とも頼もしい返事が記されていた。
返書の要旨はこんな感じ。
「成人発症型の重症アトピー性皮膚炎です。長期間ご苦労されたこと、容易に想像がつきます。が、適切な外用療法で状態は大きな改善を見込めるものと思われます。おそらく外用療法のみで長期的に寛解を維持できるタイプだと思われます。デュピクセントの使用は治療が上手くいかない時に改めて考慮しましょう。」
文面からは先生の絶対的な自信が窺えた。
きっと、もっともっと重症の患者さんを日々相手にされているのだろう。
なんだか光がパーッと差し込んできた気がした。
なお、紹介状の続きにはこう記されていた。
「集中した外用療法による初期寛解導入を兼ねた、アトピー教育のための2週間程度の入院を勧めさせていただきました。」
このチャンスを逃してはいけない、そう思っていた。
もし勧められたら絶対入院するように家人には伝えていたため、即入院日が決定した。
2週間の入院では強いステロイドをヒルドイドと呼ばれる保湿剤で混合したものを全身(顔面はプロトピック)に塗る。
保湿と掻爬防止のため、上下肢にはやわらかいギプスみたいなものを装着する。
効果はほどなく現れ、大抵の人は2週間以内に湿疹が消失し、テカテカの状態で退院していくらしい。
赤ちゃんは特に皮膚のターンオーバーが速いため、掻きむしって血みどろの状態で入院してきても、退院する頃にはツルツルになっているんだとか。
家人の場合、たまたま皮膚の状態が良い時期だったこともあり、退院する頃には完全に皮疹が消失。
もともと足はさほど酷い状態では無かったが、さらに輪をかけてキレイになっていた。
こんな感じ↓↓
足はそれほど酷くなかったんだけどね。
写真で出せるのがこれくらいしかなくて。
先ほど、入院のタイミングがちょうど皮疹の落ち着いている時期だったと書いた。
しかし恐ろしいことに、前述の「TARC」を入院前に測定してみたところ「7000pg/ml」というまずまずの高値が叩き出された。
一見皮膚の状態が良く見えても、実は陰で炎症が燻っていたということだ。
この数値が低くならない限り、ステロイドを減らすとアトピーはすぐに悪化してしまう。
さて、今回の教育入院。
見た目の皮疹は大きく改善したが、見えない炎症、すなわち「TARC」の値はどうなったか。
退院時の測定で、なんと150pg/ml程度まで低下していたのだ(この下がり方には個人差あり、ウチはかなり下がった方)。
恐るべしプロアクティブ療法。
いや、これはプロアクティブ療法そのものではなく、プロアクティブ療法を成功に導くための前段階、いわゆる「初期寛解導入」というプロセスであった。
ややこしいけど混同してはいけない。
プロアクティブ療法は退院後の今からが本番。
せっかく寛解導入で「いい状態の皮膚」を手に入れたのだから、今後はこれを維持できるように先生と二人三脚でアトピーと付き合っていかなければならない。
今回書けるのはここまで。
この状態をキープできるかどうか、それは今後おいおいわかってくるだろう。
だけど、私はこの治療法に可能性を感じる。
中等症以上のアトピーに我流で挑んでいる方、厳しい食事制限やステロイドを使用しない方法でなかなか思うような成果が出ていない方。
もしもあなたの周りにそんな方がおられたら、こういう治療法もあるんだよと教えてあげて欲しい。
選択肢の一つとして。
もちろんこの先何年も経てば「こんな治療法は非常識だ」なんていわれるかもしれない。
医療なんてそんなもの、昔の常識は今の非常識ってのが日常茶飯事の世界。
だけどやっぱり私はこの治療法に可能性を感じる。
高価な新薬に安易に飛びつくのではなく、昔からある治療薬を正しく理解して正しく使用するだけの治療法。
ただ、それだけなんだけど。
そんな方が一人でも少なくなれば、と切に願う。
長文にお付き合い頂きましてありがとうございました<m(__)m>