夏といえば祭り。
祭りといえば出店。
出店といえば金魚すくい。
子供達を祭りに連れていけば当然金魚すくいをやりたがる。
仕方なく1回だけやらせてやるのだが、お持ち帰りは厳禁だ。
だって金魚があんまり好きじゃないから。
なんか開きっぱなしのあの目がね、ちょっとね。
パンパンに腹が膨らんでるやつとか見ると、うかつに触ったら口から内臓飛び出すんじゃねーか、みたいな不安を感じざるを得ない。
出目金に至ってはもはやコンセプトすらわからない。
だからとにかくウチはお持ち帰り禁止だったのだ・・・・去年までは。
今年の金魚すくいで事件は起きた。
長男のヤツが調子に乗って10匹近くもすくったのだ。
去年までは紙がすぐに破れて1、2匹が限界だったのに。
己の手腕に酔いしれた長男は、大勝の証に金魚を持って帰ると言ってきかない。
「何言ってんだ、ウチには水槽も無いし。第一毎日エサやったり頻繁に水替えたり、オマエにできるわけないだろーが。なぁ母さんや・・・・・?」
当然同調してくれるものと思い込んで嫁さんに意見を求めたところ、
「何匹まで持って帰れるんですか?」
真顔で出店の兄ちゃんに尋ねる始末。
えっ・・・裏切るの!?
「いやね、ずっと思ってたんだけどそろそろ金魚飼ってみてもいいんちゃうかなって。自分たちで世話させるのも大事かなって思うのよ」
えっ・・・そんな重要な案件、オレに相談も無くナニ勝手に決めちゃってんの?
思いがけず嫁と長男が手を組み、そこへあまり事情を理解していない長女次女までなんとなく加勢するという即席連合軍を前に四面楚歌の父。
結局獲った金魚のうち、活きのいい二匹をお持ち帰りすることになったのだ。
突然我が家に現れた闖入者。
黒い出目金と赤白の琉金(かどうかよくわからんヤツ)。
ひとまず名前を付けようということで、黒い出目金がロク、赤白の琉金がマユゲ(目の上に眉毛みたいな黒い模様があるから)に決定。
水槽が無いためとりあえず持ち運び用の虫かごに水道水を入れ、帰り道に買ったカルキ抜きを数滴たらして二匹を虫かごに移す。
小さい尾ヒレをプリプリ振ってチョロチョロ泳ぐ二匹。
それを見てなんとなく癒される父。
あら・・・・なかなか可愛いじゃない
己の中に眠る母性的な何かを激しく揺さぶられた私は、早速ネットで金魚を飼うために必要な情報を収集。
フムフム大きめの水槽に底砂に・・・あーそれとブクブクな
なになに・・・濾過機もいるの?
結構手がかかるじゃないの
翌日、仕事帰りに近くのホームセンターで必要物品を買い漁る。
迷いに迷った挙句選んだのがコレ↓
外掛け式のフィルターが付いており、これ一つでエアレーションいらず。
底に敷く砂利はシックな黒で。
これで準備万端。
急いで家に帰ると、子供達と一緒に新しい棲みかを作成する。
これが中々に楽しい。
ようやく準備が整ったところで、即席の虫かごからロクとマユゲを水槽に移す。
最初は居心地悪そうに忙しなく泳ぎ回っていたが、すぐに落ち着きを取り戻して気持ちよさげに揺れている。
なんとか移植成功、ということでチョロッとエサをあげてみたところ、思いのほかパクパクと食らいついてくる。
エサを食べている姿を見てさらに癒される一同。
イイじゃない!
金魚なかなかイイじゃないの!
その頃にはすでに「ご趣味は?」と聞かれたら迷わず「ええ、アクアリウムです」と答えてしまいそうなほどどっぷりとハマってしまった父。
この子たちを立派な成魚にしてみせるぜ、そう胸に誓ったのだ。
二日後の朝、浄水器の隙間に挟まるような形でロクが遺体で発見された。
亡骸を近所の公園に埋葬した。
四日後の朝、砂底に顔を突っ込むような形でマユゲが遺体で発見された。
亡骸を近所の公園に埋葬した。
なんか納得できないパンダ組一同は、すぐさま近くのペットショップに行き事の顛末を報告。
すると店員が一言、
「あぁ、金魚すくいでしょ?あれ九割がた死にますわ」
・・・・・マジで?
もちろん成功する例もあるのだが、ほとんどのケースでは2週間以内に死んでしまうらしい。
それだけ金魚を取り巻く環境が劣悪なのだという。
成功させたいのなら金魚すくいではなく、個別に水槽で売られているやや大きくなった個体を買ってくださいとのこと。
その甘い誘いに心がグラつく父。
ふと横の水槽に目をやると、丸まる太った不格好な金魚が愛嬌のある顔で必死に泳いでいる。
キミ、なんてお名前?
ピンポンパールっていうの?
おじさんのお家に来るかい・・・・??
店員の思惑に乗せられ財布の紐に手が伸びかける父。
それを横で見ていた嫁さんが厳しい顔で待ったをかける。
「アナタそれでいいの?自分たちで捕って育ててこその金魚でしょ?もう死ぬのは見たくないって・・・どうせそのままでも死ぬ運命よ??だったら・・・・・」
みなまで言うな嫁よ
オマエの言わんとすることは痛いほどよくわかる
それこそが本当の・・・・・金魚救い、だろ?
そこからの父にはもはや迷いなど無かった。
みんなで可哀想な金魚たちを救ってやろーぜ!!
その夜、再び威勢よく出店へと繰り出す一同。
人の良さそうな店主のいる出店を厳しい目で選別する。
ここだっ!
おそらく80過ぎのおばあさんが一人で切り盛りする店に目星を付ける。
長男にポイを持たせ、血眼で元気の良い個体を物色する。
いまだ長男っ、アイツを狙え!!!
息子の方を振り返ると、こちらの指示など聞く耳も持たず手当たり次第に捕りまくっている。
最終的に20匹以上ゲット。
おばあさんにコイツとコイツが欲しい、と所望したところ
「どれを持って帰るかはアタシが決めるの」
そう言って獲った金魚とは全く関係のない、まだ水槽で泳いでいる金魚を巨大な網で追い回し始める始末。
最終的に丹頂と琉金を一匹ずつ、それにオーソドックスな小赤(普通の金魚)三匹を袋に入れてくれた。
「いや、五匹もいらな・・・」
言いかける父を無言の圧で制する嫁。
確かに・・・一匹残ればいい方だもんな
結局全員家に連れて帰ることに。
家に到着後、細心の注意を払って金魚たちを迎え入れる準備を整える。
まずはバケツに0.2%の塩水を作って塩浴。
エサは数日間与えずに様子を見る。
しばらくすると大きな水槽に移し、慣れてきた頃に少量のエサを与えてみる。
うん、五匹とも元気だ
エサの食いつきも良い
今回は・・・・・イケるんじゃない??
そして現在、我が家では金魚のいない水槽に取り付けられた浄水器の音だけが虚しく響いている。
近所の公園は我が家専用の墓地と化している。
だけど夏はまだ終わっちゃいない。
こっちはいつでもスタンバイOKだ。