高校の頃はもう部活一色の生活でした。
火水木金土日と練習、休みは月曜日だけ。
土日はキャプテンのやる気スイッチ次第で二部練なんてことも(午前午後ぶっ通し)。
屋外の部活だったので真っ黒に日焼けして、水泳部より黒いとよくからかわれたものです。
そんな生活だから当然全てが部活中心であり、クラスメイトよりも部員との繋がりの方が圧倒的に強いものでした。
体育会系の部活なんてどこでもそんなもんでしょうけど。
身も心も少年から青年に変化していくこの大切な時期、部活から受けた影響は計り知れません。
四十路を越えた今となっては日々下ネタを身にまとって生活しているようなものですが、高校に上がりたての私はまだとても奥手な少年であり、口は悪くても卑猥な言葉を口にするような人間ではございませんでした。
しかし周りの部員達ときたら・・・ここで書くことすら憚られるようなエロネタをさも楽しそうに、ごく当たり前のように日常会話に散りばめてくるのです。
それを毎日のように聞かされた私は当然、少しずつそういった下ネタに馴化していきました。
そればかりではなく、そういうシモを平気で口にする部員達を見て、早く自分もそのステージに辿り着かなければという焦りを覚えるようになったのです。
ある日、鮮烈な下ネタデビューを窺っていた私にとって絶好の機会が訪れました。
丁度同じグラウンド内で、なかなかに豊満な胸を持つ女子部員が私達の目の前を懸命に走り回っていたのです。
・・・・自然なタイミングで下ネタを発するには今しかない
そう考えた私は高鳴る鼓動を必死に抑え、なんてこと無い風を装って周囲の部員達に声をかけたのです。
「ねえねえ見てよあの子。ほらあんなに乳房が揺れてる・・・」
・・・・・・・・
部員達の気配が一気に引いていくのを肌で感じましたね。
・・・・えっ?オレなんか間違えた!?
後悔すれど時すでに遅し。
彼方まで引いた部員たちの気配が、すぐさま何倍にもなって襲いかかります。
「!!!!コ、コイツいま乳房言うたん?乳房言うたで!?」
「乳房って!!今どき乳房って!!!」
「おいおいコイツ文学少年かよ!?」
・・・・・文学少年だったんですけどね。
しかしまぁ、完全に間違えてしまいました。
正解は「チチ」だったんですね、今なら間違えようもないのに。
それから約1ヵ月はこのネタで執拗にイジリ倒されましたが、だからといってイジメられることもなくハミられることもなく・・・・私は徐々に染められていったのです。
シモに。
ちなみに私にはシモの師匠がいます。
同じ部員のO(オー)という男です。
実はこのOとは中学校も同じ、実家も歩いて10分程度のご近所さんでした。
しかし私達は地元の公立高校に進学してこの部に入るまで、ほとんど話をしたこともありませんでした。
偶然同じ部活に入って話をするようになった当初、Oという男は私にとってかなり異質な存在でした。
その頃のOは背が低くて色白、目はギョロリと大きく少し出っ歯であり、何となくリスのような小動物を想起させる雰囲気でした。
しかしその見た目とは裏腹に、一度口を開けば私がそれまでの人生で耳にしたことも無いような難解な横文字(もちろんシモ)のオンパレード。
いかにシモに憧れていた私をもってしてもコイツだけはヤバい、この領域はもはやエロスではなく変態だ、と警戒したものです。
にもかかわらず、その後私は3年かけてOにしっかりと染め上げられてしまいました。
いまだに私の母は、私が下品な言葉を口にするようになったのはOの影響だと嘆いています(ちなみにOのことは好きみたいです)。
しかしなんの因果でしょうか、私とOとの関係は高校を卒業してからもずっと続いたのです。
私は最初に通った大学をすぐに中退して宅浪を経験しているのですが、ほぼ同じタイミングでOも大学を休学しました。
それからというもの、よく二人して地元の図書館で受験勉強したものです(サボって飲み歩いてばかりでしたが)。
その後互いにそれぞれの大学に進学しましたが、大学が同じ県内だったということもあり、それからもなんのかんのとよく遊んでいました。
就職活動でOはかねてから希望していた企業に内定し、関東への移住が決まりました。
一方私はまたまた休学して再受験を決意、これによって完全に進路が別れました。
しかしそれからも最低年に2、3回は地元で酒を飲む関係が続いており、そのまま現在に至ります。
チビで変態だったOはいつの間にやら決して低い方ではない私の身長を追い抜いてしまい、今や世界をまたにかけたバリバリの社会人です。
つい最近も数年の駐在を終えてイギリスから帰国したばかりです(駐在中も頻繁に日本に帰ってきては一緒に飲み歩いてましたけど)。
所作振る舞いがすっかりジェントルマンになっていて、昔を知る私としてはなんとも不思議な気がします。
しかしまぁ、Oと酒を飲むたびにそういった懐かしい日々を思い出すのです。
まさにあの頃は私が人生の主役、毎日がBrand new Daysでした。
小さな暴君たちが主役となった今、ホントにエキサイティングかつ疲労困憊な毎日です。
自分にだけ向けられていたスポットライトが徐々にトーンダウンしていくのを感じつつ、それを満足して受け入れている自分がいます。
人はこうして歳をとっていくのでしょうか。
だけどこのまますんなりと主役を譲る気もないんです。
自分だって残りの人生、もう一花二花咲かせたい。
そしてそれを子供達にも見せたい。
そろそろ人生のターニングポイントを迎えている気がする今日この頃です。